たべもののはなし

食べることばかり考えてる

ゼリーアンドサイエンス

お料理の科学を一番最初に驚いたのはゼリーを作った時だ。

 

ゼリーを作れるだって!?と最初に驚いたのは、たしかその当時読んでいた小学生向け雑誌の『ひんやり!おうちで夏デザートつくっちゃお☆』的な特集を読んだのがきっかけだ。あのプルンとした透明でひんやり甘いのを、おうちで・・・!?好きな味で・・・!?・・・なんということだ!、という衝撃だった。

 

その日の夕方には近所のスーパーに行き、ゼライスという粉末ゼラチンを買って帰った。いっつも行くスーパーのいっつも行くお菓子売り場のすぐ近くにこんな魔法が潜んでいたとは。スーパーマーケットは魔法の森だ。

 

最初に作ったゼリーはオレンジ味だった。今も覚えている。親がお中元でたくさんもらったという、いろんな味の小さな缶ジュース、その中でも特別に好きだったオレンジを使ったのだ。小鍋にあけ、お水とお砂糖を入れてフツフツ煮立てて、ゼラチンを入れて、ガラスコップに注ぎ入れて、冷蔵庫にぽん。なんども冷蔵庫を開けては、次第に固まっていく表面に胸をときめかせていた。

 

出来上がったゼリーはプルンプルンでものすごく感動した。手のひらの上に、オレンジ色の海をたたえた小さな惑星があるみたいだった。スプーンですくうと、液体だったはずのそれはひとくち分ちゃんとすくわれる。プルンプルンで、ひんやりして、甘くて、良い香りだった。

 

科学。

「ゼラチンの粉を入れて冷やすとゼリーになる」

と文字で表すと実に簡単だが、そこに至るまでに果たしてどれほどの科学があっただろうか。プルプルとした食感の正体を突き止め、抽出し、精製し、ゼラチンと名付け、食用にし、粉末にし・・・これよりもはるかに多い工程がかかっているだろうし、そこに捧げられた人類の英知は計り知れないだろう。もちろんゼリーに限った話ではないが、水を固形にすることの衝撃を知った時そんなことに思いを馳せたのだ。

 

おかげで我々人類は「ゼリーを作れない」が「ゼリーを作ることができる」になった。これは劇的な進化、飛躍である。進歩は新しいことを望む、もしくはより簡便になることを望むことで生まれると思っているが、粉末ゼラチンはその両方を見事に叶えている。本当にすごいことだとおもう。私はゼリーを作れるんだぞ。誇ったっていい。

 

夏の盛りを過ぎてなお、ぷるりとした食感は喉に優しい。小さな海のひとしずくであろうが、食いしん坊の怪獣の心を癒す。

 

ゼリー、大好き。