たべもののはなし

食べることばかり考えてる

蕎麦、大人の男

ハチミツとクローバー』が大好きだが、そこに出てくる野宮さんという人がいけてる大人の先輩という感じですごく好きだった。

中でもとっても好きなシーン。登場人物の山田を誘って車に乗せ、「ハラとか減ってない?」「そばとうどんどっちが良い?」「美味いとこ知ってんだ、ちょっと遠いから高速使うね」と言い、なんと長野まで連れてってしまうのだ。

 

デートに行こうなんて言わないスマートな誘い、夜の高速、車、蕎麦を食べるためだけに遠くまで連れてってしまう・・・

 

オ、オ、オットナァァ〜〜!!!!

 

と小学生当時、たいそう驚いたものである。全部が未知だった。えっ大人ってこうなの!?夜でも長野いけるの!?蕎麦って現地で食べるとおいしいものなの!?全部が未知の、大人の男の人だった。単純にあの銀縁眼鏡で細いのにガツっと慣れてる感じにも痺れた。

 

で、今。大人にはなったがそんなスマートな男の人は稀だと学んだ。同時に、デートの誘いに限らず自分の意思を通す時の遠回しな言い方の数々、夜の高速道路の光の綺麗さ、夜に車に乗るとそのまま紺色に溶けそうになる感覚、そして、何よりも現地で食べるものの美味しさを学んだ。旅行や出張、そのたびに土地の美味しいものの魅力に気づいては喜ぶ大人になった。

 

都内に深大寺温泉という場所があり、そこは温泉とお蕎麦が名物なのだ。お出かけで訪れたとき、温泉はもとより蕎麦ランチが楽しみで楽しみで仕方なかった。名物にうまいもんがある!お店もたくさんあった。

 

そして訪れたお蕎麦屋さんは、賑わっていてみんな笑顔だった。天ぷら蕎麦、きのこ蕎麦、肉蕎麦、、いろいろあったが、我々は打ち合わせもせず全員天ぷら蕎麦を注文した。

 

きたお蕎麦はツヤツヤで色が少し薄く、天ぷらは黄金色だった。飴色のつゆに薬味を溶かし、一すじ。・・・美味しい。お蕎麦が透き通って染み渡るみたいに喉を滑り落ちていく。ふわっとお蕎麦の香りがしてたまらなかった。天ぷらも素晴らしくて、一口食べるごとにサクサクと音がして弾けて、ああこれが美味しい天ぷらかと思った。名物を食べる喜びをまた知ってしまった。なんと嬉しいことだ。

 

蕎麦が名物という土地は多いが、それにめぐりあうたび思い出すのはハチクロの野宮さんなのだ。スマートで余裕のある大人の楽しみのイメージのひとつに夜に遠方で食べる蕎麦をくれたのは、野宮さん、羽海野チカ先生。

 

長野はまだ訪れたことがないが、行くとなったら夜、お蕎麦を食べたい。それで、ああ、これかぁという喜びをかみしめたい。漫画に限らず、憧れの登場人物の記憶を体験する喜びがあるから創作物は尊い

 

蕎麦、大好き。