メンマのふしぎ、あるいは奇跡
父の好みと母の忙しさから、毎週土曜日のお昼はラーメンという頃があった。サッポロ一番を筆頭にあらゆる家庭用ラーメンを食べた。
家ラーメンの良いところはトッピングが自在であるところなので、とりわけ好きだったメンマを爆盛りにして食べていた。
メンマ、又の名をシナチク。シナチクという言葉は聞きなれず、父に尋ねたところ「シナは中国の古い言い方、あまり今は言わないね。チクは竹だよ。」と返ってきた。
竹。
竹!!!!!!???
ものすごく驚いた。あの、冴え冴えとした緑がスックとそびえ立つ竹が、こんな茶色くて小さくて美味しいメンマになるなんて!!!食べ物ってどうなってるの、私こんなに竹食べておなかから生えてきちゃうんじゃないの、、?と思った。
のちに竹というより筍と知り、それならばと納得したものであった。
メンマは筍を発酵させたものであるらしい。発酵という現象、発酵食品の美味しさはつくづく愛すべきところである。
小泉武夫氏著の『発酵』という本がとても好きなのだが、
これを読むとつくづく、発酵はこの世界に現実に存在する奇跡だなぁと思う。メンマも、あの硬い筍が菌類と時間の働きによってあんなに美味しくなる。
まぁもっと言えば、奇跡は発酵に限らないのだ。竹の若いやつが食べられること、それを育ちきる前に見つけて掘り当てる人がいたこと、食べられない成分がなかったこと、そして発酵しようとした人がいて、無事発酵して、それが美味しくて、メーカーが大量生産を成功させて、私の食卓が平和で、それでメンマを好きになれたのだ。奇跡の連続である。
端くれながら物を作る仕事をしているとやはり喜びとともに苦労も悲しみも知る機会があり、それゆえにこの世に存在するあらゆる事物が制作物や自然の発見によるものであることを心から嬉しく、また恐ろしく思う。
メンマも然りだ。本当に美味しい。望んで購入できる奇跡というものがある。良い世界に生まれた
メンマ、大好き。