たべもののはなし

食べることばかり考えてる

天丼インパーフェクトラブ

天丼考えた人本当にすごいと思う。

 

アッツアツのご飯にサックサクの衣の天ぷらをどん、甘辛いタレをシュワッ、あぁ、こう思い出すだけでも食欲が湧き上がる。天ぷらと甘辛と丼の食文化とが両立もといマリアージュする世界に生まれて良かった…

 

というわけで特に体調がよろしい時は天丼への憧憬を募らせながら生きている。しかし、真に募らせているのは、もしかしたらたったひとつ、あの天丼なのかもしれない。

 

小さい頃、水泳教室に通っていた。大きな道路沿いにあったその教室には母と自転車で通っていたのだが、その道の途中に天丼屋さんがあり、母はいつどんな時もその店の前を通ると「このお店がほんっとうに美味しいの!いつかあなたと食べたいわ〜〜」と言っていた。

 

へえそんなに美味しいんだ、それは是非いつか食べてみたいなとずっとずっと思っていた。

 

しかし、悲しきかな。水泳教室の前後に天丼はあまり適さないし欲さない。それにちょっと立ち寄って、というほどライトな食べ物でもないため、私はそのお店の天丼を食べることはなかった。母の「美味しいのよ」という言葉の印象だけが残って積もっていった。

 

今となってはその場所がその天丼屋さんなのかどうかもわからない。ついに私はその天丼屋さんの天丼を食べることのないままその街を訪れない大人になってしまった。

 

叶わなかった恋の記憶ほど鮮烈だと言ったのは誰だったか。私は今も時折天丼に巡り合うが、その美味しさを感じるたび、ただの一度も味わうことも、もっと言うと見ることもなかったあの店の天丼をきっとどこかで想ってしまっているのだ。

 

あまりにも身勝手であまりにも切ない。天丼よ許してくれ、己の都合よく会いに行かなかった相手への思慕を忘れることができぬまま君を求めていた。図らずも歪んだ心で君を愛していたような気がする。決して君を愛していないわけではない、むしろいつも喜びをくれる。しかし、忘れることができないんだ…会うこともなかったアイツのことを…

 

大げさに書くとバカバカしくて胸がすく思いだ。今や水泳やめてホットヨガやってるし美味しい天丼は躊躇なく頼めるくらいには日々働いている。今度その店の側に行ってみよう。叶わなかった恋だなんて美化しないで、会いに行こう。

 

天丼、大好き。