たべもののはなし

食べることばかり考えてる

桜餅が恋しくなる気温だった

昨日、東京は春の陽気であった。呼吸のたび胸一杯に春の気配をふわりと吸い込み、思い起こされる桜の景色にキュンとした。香りは記憶と密接というが、気温だってそうだろう。なんたって皮膚の記憶である。本能が忘れ難い。

 

食べ物のブログだった。春といったら桜、桜といったら桜餅であるが、ここで唐突だが桜餅、どっち派ですか?

詳しく言うと、クレープ的な見た目の関東風な長命寺の桜餅と、ピンクのおはぎみたいな関西風の道明寺の桜餅である。しかし改めて画像を検索してその愛らしさに驚いた。ピンクと緑って素敵な色だ。

 

元来お米を愛しおはぎを愛している私は、なぜか昔から桜餅といったら道明寺オンリーだった。

 

道明寺の桜餅それ自体が満開の桜の大樹のようで、見た目に麗しい。少し塩の効いた桜の葉をパリと破ると現れるむちむちっとした歯ざわり。口一杯に桜の香りが広がったと思ったら、ほんの僅かの時を経て蕩けるほどに甘いあんこを堪能する。こんなにも素敵な食べ物で春を楽しめるなんて素敵な国に生まれたなぁと思う。

 

なのに、短い春に、消費期限の短い和生菓子、長命寺を食べるなぞ重大な機会損失、言語道断とばかり思っていた。道明寺こそが桜餅、異論は認めん。

 

食わず嫌いなんてそんなものなのである。大概が決めつけなのである。

 

その証拠に意を決して食べた長命寺の桜餅は見事で、それ以来桜餅といったら長命寺なのだから。親戚がうちに来るときに和菓子屋さんで買ってきてくれたのだが、道明寺がムチムチなら長命寺はまったりとした歯ざわりで、あれは餅というよりもこしあんの滑らかさを桜の香りとともに楽しむお菓子である。こしあんのための生地、こしあんのための桜の葉、主役のこしあんはさりとて甘すぎず、雪解け水が滑る春の川を思い起こすような味わい。そこに春があった。

 

うどんのお出汁を筆頭になんとなく遠い存在の関東と関西の味わいであるが、桜餅だけは別だ。和菓子屋さんでもスーパーでも、だいたいちょこんと仲良くおとなり同士で座ってケースに桜を咲かせている。仲良しで大変よろしい。

 

春が来る。窓の外を見る時間も外を歩く時間も、道明寺だけを愛していたあの頃よりもずっと短い。桜の季節に窓を開けるとなんとなく花の甘い香りのする季節が、もうすぐ来る。

 

桜餅、大好き。