たべもののはなし

食べることばかり考えてる

しらすをたっぷりのせたご飯をワーッとかき混ぜて

歳をとるごとに好きになるのがしらすである。しらすしらすでも、歯ごたえと味わいがふんだんなジャコではなく、つるんと透明な生しらすでもなく、真っ白でふわふわの釜揚げしらすだ。

 

初めはあまり意識すらしていなかった。柔らかくて食べやすいおさかなくらいの認識であった。本当に、美味しい!とも実は当時あまり感じず、言ってしまえば食卓にあるパックの中身くらいの認識であった。

 

ある日、漫画『あたしンち』でしらすパックの中にちっちゃいタコが入っている旨の記述を見たときに、初めてしらすにきちんとした興味を持ったかもしれない。

たしかにしらすのパックには、いるのだ。タコ。だけではない。全然違う魚の稚魚も何回か見かけた。「チリメンモンスター」なる言葉で検索すると、出る、出る、出る!!さまざまな生き物たち。カニタツノオトシゴ、カジキマグロといったおよそカタクチイワシとは程遠い生き物でも密やかに紛れていたりするのだ。今度しらすパックを買ったら是非見てみてほしい。

 

話をしらすそのものに戻すと、好きかもと思った最初はしらすに塩分を認識した時だ。とても疲れて帰った日にふと思いつき、卵黄だけの卵かけご飯にしらすをスプーン山盛り一杯乗せて混ぜた。その時の、発見に近い気持ちは面白かった。しらすは無味の魚ではなく、ふんだんな海の香りと魚介のタンパク質風味をしっかりと含んだ柔らかな調味料に近いかもと思った。

 

しらすを大好きになったのは江ノ島観光だ。江ノ島は初夏になるとしらすが旬で名物になり、しらす丼の店が軒を連ねる。中でも人気というお店に、梅雨明けの平日休みに訪ねたのである。

 

平日にもかかわらずとても混んでいてかなり並んだ。椅子に座って待っていると、お店のお母さんがニコニコしながら注文を聞きにきてくれる。この色々乗ってるしらす丼をふたつくださいと伝える。

 

しばらくすると、またそのお母さんが近づいてきたのである。なにやらとても大きいボウルに茶色いご飯が満載。

「これね、しらすの混ぜごはん!」

私と同行者と、手のひらにひとくちぶんずつ乗せてくれた。口に放り込むと、心地よい塩気にネギの香りとしらすの風味、ゴマの香りがいっぱいに広がって本当に美味しい!思わず作りかたを尋ねると、「めんつゆとごま油と半々で、ネギとしらすをワーッと混ぜる。おわり!」という爽快な返事。

 

あまりに美味しいのにあまりに簡単で、是非これは家で作ろうねと未来の楽しみを持ちながら並んだ。しらす丼もとても美味しかったけど、正直、あの手のひらの一口が忘れられない。

 

ちなみに、家でも作ってみた。ちゃんと美味しかった!おこめ一合に、小さなおたまにごま油とめんつゆを半量ずつ入れてフリーズドライの青ネギとたっぷりのしらす。教えてくれたレシピを、これくらいかな、これくらいかなとあらゆる要素を目分量で探りながら作ったしらすの混ぜご飯は、ちょうど良い味がして幸せだった。

 

しらす、大好き。