たべもののはなし

食べることばかり考えてる

エナジードリンクと夏の海のひかり

エナジードリンク、味がめっちゃ好き。

 

初めて飲んだその手の飲み物はおそらくオロナミンCとかデカビタとか、自販機で手に入るレベルのものだと思う。

なんとも形容しがたいあの風味。コーラともサイダーとも違う、エナジードリンクの味。独特な味。なんの成分があの味をもたらしてるのか私は知らないけれど、とにかくエナジードリンクと総称される飲み物の味が大好き。体を酷使して飲まざるを得なかった結果好きになったとかではない。本当に味が好き。いちごみるくとかと立ち位置は同じである。体にいいと思う味ではない。しかし味が、味がめちゃくちゃ、好きなのだ。

 

むしろ完全な嗜好品として味わいたいくらい。しかし、エナジードリンク。魔剤というイカした別称もあるが、そこには「エナジー」が伴ってしまうのだ。飲みすぎるとガチで体に悪いらしい。

そもそも飲まない方がいいという意見さえもある。カフェインとか、腎機能とか、そこには厳しいワードが羅列される。なぜ知ってるかというと純粋に飲みたくて調べたからだ。

 

合法的にエナドリを飲みたいという気持ちは心の何処かに常にあったが、かつてそんな私に味方したのは宮古島の海である。

 

遠い昔、宮古島行きの飛行機の機内誌で漁師さんのインタビューが載っていた。その中の一文に、私は心奪われた。

「みんな潜水病を恐れてね。予防のために、オロナミンCをたくさん飲んでいたよ」

確かこんな内容だったと思う。私は頭が悪いので、いっぱい深く潜れば、オロナミンCをたくさん飲んでもいいのだ!と解釈した。

 

もちろん今は潜水病が生半可なものではなく大変な症状であることも、オロナミンCをたくさん飲んではいけないことも良くわかる。しかし当時は見境なかった。泳ぐの好き!潜るの大好き!いっぱい潜ってオロナミンC飲む!

 

で、着いて、めっちゃ潜った。宮古島にはイムギャーマリンガーデンという心の故郷レベルに愛している入江があるのだが、そこは沖の方まで行くとどんどん深くなり、世にも美しい珊瑚礁がある。柱のように連なった珊瑚の周りには色とりどりの魚たちが踊る。

 

私はその海が、珊瑚が、その魚たちが大好きだった。シュノーケルで珊瑚の柱を見つけると、浅瀬で私を見守りながら心配する母親をよそに何度も深く潜って熱帯魚を追い求めた。苦しくなったら水底を蹴って、また潜って。銀色の泡と白い光、透明な海水、色とりどりの海の生物。

 

で、たくさん潜ったからさ、と大手を振ってオロナミンCを飲んだ。染み渡るみたいに美味しかった。ついでに、潜水がめちゃくちゃ得意になって肺活量が一夏でそこそこ鍛えられた。

 

合法的にオロナミンCを飲むためにめちゃめちゃ潜ったこともあり、夏の原風景の一つにはたしかに海の中の景色がある。刷り込まれた水色の記憶。そこにはオロナミンCへの歪んだ欲望が伴う。

 

今ではエナドリを合法的に飲めるのは徹夜明けな時くらい。今でもご褒美である。ふと唇を離して金色の炭酸を見ると、透き通る海の中で見た太陽の光と細かい泡を、なんとなく恋しく思う。

 

エナジードリンク、大好き。