たべもののはなし

食べることばかり考えてる

ポッピングシャワー同時に何個食べたことある?私?3つ

恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』を久しぶりに読んだ。

 

 

劇中で描かれているコンクールの中で、コンテスタントたちは自分を表現するために制限時間の中で3曲を選んで臨む。その選曲ひとつとっても情景が浮かぶような恩田さんの筆致。才能というものや、音楽に限らず何かに向き合うことついて考えさせられる大好きな小説である。

 

制約の中で自己表現のために3つを選ぶことのない人生を歩んできたな〜と思いながら本を閉じて、いや待てよ、と脳が疼いた。自己表現というか自己探求というか、いや全然そんなちゃんとしてないやつなんだけど、一個あったわ、あの、チャレンジザトリプルというやつ・・・・・サーティーワンの・・・・・・

書きながら恥ずかしくなってきたが続ける。サーティーワンの「チャレンジ・ザ・トリプル」というキャンペーンがあるのです。つまり「ダブルの値段でトリプル食べられる!」という最高の夏確約企画。普段シングルをチビチビ食べるだけでも満たされる美味しいアイス。暑い季節がやって来て、ダブル、食べたいな…という思いが募る中、「もう一個タダだし」という甘〜い言い訳をくれるのだ。さながら「自分の気持ちに正直になりなよ!」って背中をドンと叩いて最高の夏の思い出のきっかけをくれる気のいい友達(概念)みたいで、個人的にすごく好きなイベントである。

 

むせ返るような雨の夏の日、10代だった私が通りがかった今はなき下北沢のサーティーワン。そびえ立つ「チャレンジ・ザ・トリプル!」ののぼり。いつだって甘いものが食べたいけどこんな日のアイスは最高だ、と吸い寄せられるように入って、その後のことである。普段なら「え〜どれにしよっかな〜」とドキドキワクワクが止まらないはずのショーケース前において、今でも不思議になるくらいあの時の気持ちは静か、さながら凪いだ海のようであった。言うべきことは決まっていて、だけど覚悟を決めた瞬間胸が高鳴った。
寸分の迷いもなくショーケースの前を横切り、お姉さんに言い放った一言。

 

「チャレンジザトリプル、3つともポッピングシャワーでお願いします。」

 

いろんな味を試そうね〜という人生が豊かになるきっかけを与えてくれたサーティーワンに対してこの仕打ち。お姉さんも「3つともでよろしいですか?」って聞き返してくれたけどあのとき私は間髪入れずに「はい、3つともです」って返してた。私は自分に正直だ。好きなものは好き。欲しいものは欲しい。そんな気持ちに素直すぎるくらい素直に従って面白おかしく生きてきて、でもさ、今更だけど3つともはようやりおったねと今でも思う。

あまりに前置きが長くなったがポッピングシャワーが大好きなのだ。涼しげなミントグリーンのアイスの色。まったりとコクのある口溶け。そんな口の中に打ち上がるカラフルで甘い花火の鮮やかさ。キャラキャラと音が聞こえそうな躍動に毎度うっとりしてしまう。初めて食べた時の感動を毎回のように思い出せる時点で発明だ。

 

だからって3つともはやっぱりようやりおったのう。
今でこそ自分の機嫌を取るための選択肢として「背伸びした食」というものはほぼ第一に来るが、今よりもずっと若い時はあんまりそんな感じじゃなかった気がする。何かを達成した時に食に求めたのは「背伸び=質」ではなく、「量=量」であった。量はすなわちヤケ食い、逆に言うとヤケじゃない大量食いはスペシャルだった。たとえばスイパラなどの「食べ放題」は日常においてはやや高価で、立ち位置としてはご褒美とかスペシャルとかそんな感じ。自分のご機嫌取りにヤケより背伸びがきていると気づいた時「ああ大人になったなあ」と思ったものだったが、そういえばあの日のポッピングシャワー3兄弟は量感めっちゃあったものの気持ち的には背伸びだった。充足、ハンパじゃなかった。

 

蜜蜂と遠雷のテーマでもあったけど、才能ってなんだろう、というのはモノづくりを生業としようと願って生きていた身にずっと付き纏ってきた問いだったかもしれない。
いろんな姿の才能を見てきた。定義するのは本当に難しいけれど、たぶん、未来の光を信じ続けられる自信とか、輝く機会が巡った時に逃さない力とか、何を問われてもブレない想いみたいなものだと思う。そしてもちろんそれが全てではないが、才能を発揮する環境とそれを用意してくれる存在だって大事なもののひとつだとも思う。


もし、才能をそう定義するのであれば、あの日私は大好きなポッピングシャワーを大量に食べる才能があった。いっぱいポッピングシャワーを食べられると信じて入店し、チャレンジザトリプルのチャンスを作ってもらえたタイミングで、「3つともでよろしいですか?」と恥ずかしい質問を聞かれてもハイと答えてた。

書けば書くほど情けないくらいアイス大好きなだけの奴だけど、そんな私にもポッピングシャワーはいつもと変わらず素晴らしくおいしかった。

ポッピングシャワーを作ってくださった方もチャレンジザトリプルを考えてくださった方も人を幸せにする才能に溢れています。今も忘れられないほどの、楽しくて幸せな雨の夏の日をありがとうございました。

 

ポッピングシャワー、大好き。