たべもののはなし

食べることばかり考えてる

しいたけと従兄弟の謎の愛

物心ついた時、わたしはいとこのガンちゃん(仮名)がなぜか大好きだった。小さい頃に会った記憶はなく、会ったとしても一度くらい。それでもガンちゃんは強烈に覚えていた。恐らく初めて出会った「お兄さん」だったから珍しかったとか、遊んでくれたのが楽しかったからとかだと思う。

 

その頃わたしはしいたけがあまり好きではなかった。しかし、ある時から母親は私にこう言うようになる。

 

「ガンちゃんの好きなしいたけだよ〜」

「ガンちゃんしいたけ好きだって!」

 

今なら、いやガンさんがしいたけ好きだろうが私は私、ありのままの姿でしいたけ嫌いですわって思うだろう。

 

しかしなぜか当時はガンちゃんの一言さえあらばしいたけを食べた。ガンちゃんに好かれたいとかでもガンちゃんみたいになりたいでもない。でも食べた。

 

親にとっても好都合だったろう。たまにしか会わない親戚にピンポイントでしいたけ好きを公言するなんてどんだけ好きなんだよとか、そういった現実的な思考は当時はまだない。

 

「ガンちゃんがしいたけ好きなら私も食べる!」うーん、日本語として成立してるかしら?それでも成り立たせてしまっていた当時の私と親のゴリ押し、ガンちゃんの謎の引力に乾杯である。

 

しかしそのおかげでしいたけ、今や大好物である。どんこしいたけのように甘辛く煮たやつが最高だが、バター焼きや鍋に入ってるしいたけも好きだ。肉厚で歯ごたえもプリプリ、きのこの風味がダイレクトに感じられる至高の食材だと思う。

 

子どものやる気というものは一体どこから何に対して湧き上がるのかわからないものだ。我ながら、滅多に会わない親戚と彼のしいたけへの根拠なき愛を糧に好き嫌いを乗り越えると思わなかった。

 

まだ「おジャ魔女どれみがしいたけ食べて魔法使えるようになったから」とかの方が動機としては成り立つような気もするし、親も親で「栄養たっぷりだから」とかの方が言いそうである。しかしどれみちゃんがしいたけによって力を得る描写はないし、栄養も目に見えない。けどガンちゃんとしいたけの関係性はもっと見えない。

 

今も不思議だ。まさかガンちゃんも遠い場所で幼いいとこが自分の名を理由に好き嫌いを克服したとは思うまい。人間、どこで誰のなんの役にたつかわからないものだ。

 

ガンちゃんありがとう、しいたけ美味しいです。

 

しいたけ、大好き。