たべもののはなし

食べることばかり考えてる

ハンバーグはやさしいステーキ

年々、挽肉が好きになっていく。

 

前はなんか、お肉と言っても不確かな感じがして「すき!」という感じでもなく塊の肉至上主義的な時期もあった。間違いなく美味しいが、例えば野菜炒めとかに少し混ぜるとぐんと美味しくなる的な、極論、香り調味料とかに近いのかもとさえ思ってたこともあったり。

それが今やもう挽肉が大好き。そのままだと傷みやすい以外のデメリットが見つからない。不確かと思っていた歯触りは優しさとしか思えなくなった。

 

ハンバーグなんてその最たると言ってもいい。もはやあれは挽肉料理というよりもやさしいステーキだ。お箸やフォークでホロリと崩れたひと口分からは豊かな肉の香りに混じって玉ねぎの香ばしさが加わる。部位とかない代わりに(あるいはあってもいいのかもしれない。チョココロネの頭がどっちかみたいな話)、均等に柔らかくてソースとよく絡んでいる。食べ応えもしっかりあるのに重くのしかかってくることもなく、あぁ美味しかった!という時間の記憶を残してくれる。これまで挽肉じゃないお肉を使っていた料理に挽肉を用いると色々嬉しい発見というか、だいたい「うっま!」と思わずいうタイプのよろこびがある。けれどハンバーグに関しては最初の記憶も最新の記憶も挽肉の塊であり、挽肉を美味しく食べる術として最上のものだとも食べるたびに思う。もはや滋味に近い。

 

柔らかい肉、というものに求めるものは少し前まで脂だった。グルメ番組で芸能人が悶絶する霜降り肉に何度思いを馳せたことか。とろける舌触りのあれこれを愛して生きてきた者として憧れざるを得なかった霜降り肉。カルビ。ステーキの白い部分。大人になったらお金を稼いで白米と霜降り肉をお腹いっぱい食べたいぞと、何度となく思った

 

しかし大人というもの、これはもう散々言われてきたことであるが脂ものを遠ざける。信じられなかったが私もその類の胃の変化の気配、足音、影、が見え始めてきた。ジャパニーズホラーみたいな現れ方をするそれは気づいたら日常に紛れ込んでいる。脂以外の喜びを年を追うごとに知っていく代わりなんだと思う。喜びだけでない。いい肉と同じかそれ以上に手に入れたいものに次から次に巡り会う。そして資産には限りがあるのだ。

 

そこで挽肉なのである。大人の今こそハンバーグである。比較的お手頃で柔らかい。子どもの食べ物ではなく、やさしいステーキとして燦然と食卓に輝かせようではないか。

 

あとなんたって挽肉は汎用性が高い。なので我が家ではハンバーグを作るとなると初見でびっくりする量の挽肉を買い、初見でびっくりする量のハンバーグを作って、食卓の太陽にしなかった分のやさしいかたまりたちを冷凍するのだ。

あれはいい。もちろんハンバーグとして後日味わうこともできるし、ほぐしてケチャップ混ぜてミートソースもどき、卵でくるんでオムレツ、中華風に味付けして麻婆なんちゃら、おいも潰して混ぜたコロッケ、ほぐして野菜と炒めて名もなきご馳走とか、とにかく使える。本当にありがたい。

 

そんな意味でも優しいんだ、ハンバーグは。お子様ランチの主役として愛されるだけじゃもったいない。ハンバーグは生活者のごちそうだ。

 

ハンバーグ、大好き。