たべもののはなし

食べることばかり考えてる

すだちミラクルメイクアップ

みかんやグレープフルーツと違って普段接する機会が全然ないのに、すだちのことはものすごくはっきりと認識している。強烈な酸味、最高に爽やかな香り。

 

すだち、単体だと味があまり際立たない。「味」より痛覚や触覚といった感覚の体感という方が近い。すごくピンポイントであの風味が尖りきっているので、フルーツというよりも調味料だ。

 

もっと言うと、絞り汁に色もない。象牙の様な色味に透き通った果肉と、皮の冴え冴えとした緑色、輪切りならそこに貝殻の内側みたいな真っ白のタネの断面も思いつく。しかし果汁の色はあまり特徴的なものではない。

 

ここまででは、すだちの魅力を知らぬ私が主役に躍り出るほどもない一回の果物を語っているだけの様にも思われるだろう。

 

私はすだちの魅力、それは何よりも味チェンに現れると思っている。

(味チェン=味チェンジ♡)

 

例えば焼いた白身魚とかに添え、ほんのひとしずく、しぼると…なんとまぁ、魔法のような豊かな風味。すだちの酸っぱさと香りが、料理の元の味わいをきちんと感じさせつつガラリと変える。とてもとても美味しい…

勿論修行を重ねたシェフのセンスによる采配ではあるものの、すだちを絞って不味いと感じたことはない。より美味しいと思ったことしかない。

 

ここで重要なのは、すだちはそのえもいわれぬ風味を味の破壊または刷新に繋げないことである。添えられたその料理の、素材の、元々の美味しい味わいや香りや、もっと言うと見た目を損なうことはない。それらを存分に感じさせつつもより異なる魅力を引き出し、一層その料理を楽しむ時間を彩ってくれるのだ。

 

例えるならば、天才的なメイクアップアーティストのようだ。その人の持つ骨格や肌質といった素材美をグンと生かし、全体的に底上げする。時にコンプレックスにもなりうる要素がいちばんの自信になる。可愛くなって、嬉しくなって、その日は特別になる。それに近いと思う。

 

小さな果実に無限の味わいを秘めて、あぁ、すだちよ、君を絞りたい。尋常じゃない暑さを忘れ始め、これから鍋の季節なのです。白身魚に、豚肉に、お野菜に。そんな食卓に、すだちよ、あなたをおまちしております。

 

すだち、大好き。