たべもののはなし

食べることばかり考えてる

オイスターソース、お前だったのか

中華料理が好きだ。中華というジャンルのお料理が好き。青天井な高級中華より(食べたことない)、町中華とかチェーン店とか中華風調味料とかの「中華」が大好き!

 

でもそれらに対する愛情がどこに惹かれているのか自分でもあまり想像がついたことはなかった。
たとえば和食なら出汁や醤油の香り、イタリアンならオリーブオイルやチーズ、みたいな・・・「ジャンル全般に共通する、“ならでは”の味覚」的なものが必ず有る気がしているのだけど、愛の焦点が定まらないのだ。

長らくたっぷりの油が好きなのだと思っていたけど、無理矢理当てはめたような気持ちだった。
この愛を向けるべきはピリ辛でも山椒でもごま油でも鶏ガラでもない。なんなんだろう?という感じ。

 

わたしは種明かしもネタバレも大好きなのである。
なんですごいかわからなかったものの正体がわかったとき、すっごく嬉しくなる。言語化できない魅力に惹かれている状態が一番の愛なんて誰かが言ってたけど、誰かに「君のこういうところが好き」って言われたら、例えその人とそれ以来会わなくなったとしても褒められた部分は一生の宝物になるやろがい派。

 

なんの話?とにかく、「なんで美味しいのか」とか「何が好きなのか」とかすごく知りたい。
でも、中華は全然わかんなかった。通奏低音のように存在する風味が確かに有るんだけど、それがなんの味なのか不明な時期が長らく続いた。

 

そのもやもやは突然終わる。

 

東京駅の周辺で友達と会うことになっていたある夏の終わり。
行こうとしていたイタリアンが満席で建物内に二人分の席があったのは二店舗となりの中華だけだった。
まあそれはそれでとアタマを青島ビールに切り替えて向かい、メニューを見る。
小皿をいろいろ頼むといい感じのお店だったので郷に従うことにして、エビチリとか青菜炒めとか目星をつけていく。
ふと目に止まったメニュー、それが「牛肉と野菜のオイスターソース炒め」だった。
あ〜〜確かになんかまだ暑いし肉いいね、牛肉、それも野菜と一緒のやつ食べたいかも〜〜!
オイスターソースはしらん、なんかレシピ本とかに載ってるけど実物知らんわどうせ美味いっしょ、
と本当に軽い気持ちで頼んで、予想通りの茶色っぽい炒め物が出てきた。

 

そして一口食べたときの、あの衝撃。
「私の好きな中華」の味がした。概念である。
オイスターソース、お前だったのか。
炒め物に対して向けたことのない目をしていたと思う。

 

その瞬間から私の頭の片隅にはずっと、「オイスターソースやらを帰りのスーパーで買う」という情報がいた。
慣れないヒールで足が痛い時何をしていても常に脳の10%くらい「あしいたい」が占める感覚に近かった。
何が好きかわからなかった片思いの相手の魅力をクラスの男子がなんとなく言い当てて納得する、みたいな、
本当になんの変哲もないメニューの中に私が知りたかった正体があったのだった。
人生おもしれ〜〜〜!!!!!

 

あの日以来、常に我が家の冷蔵庫にはオイスターソースがいる。
なんとなく野菜をごま油で炒めて、オイスターソース垂らして、もうそしたら中華のアトモスフィア。
先人は本当に良いものを作ってくださった。ありがとう先人。ありがとう牡蠣。ありがとう海。ありがとう地球。

 

魅力の正体がわかってしまうと好きじゃなくなる?
んなこたぁないんだよ、その魅力を獲得した個性や過程は誰にも真似できないし、その正体の凄みを改めて想うことの方が私は多い。
オイスターソース・・・恐ろしい子!である。

オイスターソース、大好き。